この90分で持ち帰るもの
① 次に調べる業務を1本決める ② その1本を最初から最後まで追った手順 ③ 漫画の「山と谷」になる具体的な場面が3つ ④ 次回の対象者と日程
この4つが揃えば、帰ってから業務の設計図と漫画の台本の両方が書けます。
0. 始める前に、必ず言うこと0〜5分
最初にこれを言わないと、本当のことが出てきません。業務改善のヒアリングで現場が黙る最大の原因は「人を減らすために調べに来た」と思われることです。組織の長が先に「削減ではなく最適化」と言うのが要、と実務資料が揃って指摘しています。
「今日伺う内容は、やり方を楽にする設計のためだけに使います。個人の評価にも、人を減らす材料にも使いません。」
「90分いただいて、最後に『次に何を調べるか』を一緒に決めて終わりたいと思います。それで差し支えないでしょうか。」
録音する場合はここで断る。「正確に残したいので録らせてください。使うのは私の作業のためだけです」
出典=中川会計BPR/OGIS-RI/日経クロステック、ハンセン「ライフヒストリーのインタビュー方法」(全米日系人博物館 2005)の6原則〈調査・信頼関係・記録・抑制・撤収・再確認〉
1. 方針と痛いところ5〜20分
- いま、いちばん力を入れていることは何ですか。
- その中で、人の手が足りていないと感じるのはどのあたりですか。
- 数字で追っている指標はありますか。何を、どのくらいの頻度で見ていますか。
- もし明日から人が1人増えたら、その人に最初に何をやってもらいますか。
「何が優先か」を、順位を聞かずに取る聞き方
- 逆に、やめても誰も困らないと思っている仕事はありますか。
改善の順番はE(やめる)→C(まとめる)→R(入れ替える)→S(簡単にする)。やめるを飛ばして道具を入れると、無駄が速くなるだけになります
- 過去に、改善やシステムの導入でうまくいかなかったことはありますか。差し支えなければ、何が起きたか教えてください。
ここが漫画の「谷」になります。そして、同じ失敗を繰り返さない設計の制約になります
2. 仕事の全体像を分ける20〜45分
- この施設の仕事を、大きく5〜8個に分けるとどうなりますか。
- 毎日のもの・毎月のもの・年に1回のものは、それぞれどれですか。
月次・年次は忘れられやすく、あとから「実はこれが一番つらい」と出てきます
- それぞれ、主にどなたが担当されていますか。担当が1人しかいない仕事はどれですか。
- この中で件数がいちばん多いのはどれですか。おおよそ月に何件くらいですか。
この時間に埋める表(あとで業務の設計図になります)
| 業務名 | 担当 | 頻度 | 1回の時間 | 使う物(紙・システム) | 次に渡す先 |
| ※ 1回の所要時間 × 頻度 = 年間の工数。ここまで取れると、どこから手を付けるかが数字で決まります |
3. 重いもの1本を、最後まで追う45〜70分
ここがこの90分の中心です。一般論を聞かず、直近で実際に処理した1件を追います。
- いま挙がった中でいちばん重いものを1つ選ばせてください。直近で実際に処理した1件を、受け取った瞬間から終わりまで順に教えてください。
- その仕事は、誰から・何の形で入ってきますか。(紙/メール/電話/システム)
- 各段階で何を使い、どの用紙に書きますか。
- 終わったら次は誰に・何を渡しますか。渡したあと、相手は何をしますか。
- 1件あたり、だいたい何分かかりますか。待ちで止まるのはどこですか。
- 同じ内容を2回以上、入力したり書き写したりしている所はありますか。
二重入力はほぼ必ず出てきます。国の調査でも「ソフト同士がつながらないので二重に入れている」が繰り返し報告されています
- この手順の中で「なぜこうしているのか」ご自身でも説明しにくい所はありますか。
「なぜ」を人ではなく手順に向けて聞く形。人に向けると犯人探しになります
- いちばん最近、この仕事でうまくいかなかったのはどんなケースでしたか。
4. 漫画の材料を取る70〜85分
ここは業務の質問とは目的が違います。場面・セリフ・気持ちを取りに行きます。抽象的な答えは材料になりません。「いつ」「誰が」「何と言ったか」まで降ろします。
- この仕事でいちばん困った日のことを教えてください。何月ごろの、どんな日でしたか。
物語は「いつ・どこで」から始まります。日付と場面が出ると、絵が描けます
- そのとき、誰が何と言いましたか。
そのままセリフになります。要約された答えが返ってきたら「実際はどんな言い方でしたか」と一段降ろす
- そのとき、どう思いましたか。
物語の中の気持ち。吹き出しと心の声になります
- いま振り返ると、あれは何だったと思いますか。
21と22は別の質問です。21は「あのとき」、22は「いま」。両方取らないと最後のページが書けません
- うまくいっていたのに、途中で元に戻ってしまったことはありますか。
新しいやり方は、入れた2〜3か月目に一度効率が落ちます(U字の法則)。ここが漫画の谷であり、先回りして説明できる所でもあります
- 職種の間で情報が止まるのはどこですか。介護・看護・相談員・ケアマネ・事務のどこですか。
- いま、職員の方がいちばん喜ぶのは何が変わったときだと思いますか。
聞きながら気をつけること
- 自分が喋るのは全体の3割以下。沈黙は待つ。相手が考えている時間です
- 誘導しない(「お困りですよね?」)、決めつけない、他と比べない(「他の施設では…」)
- こちらの感動話の型にはめない。型から外れた言い方こそ、その法人らしさです。そのまま書き留める
- 踏み込みすぎない。言いよどんだらそこで止める
5. 締め85〜90分
質問ではなく決めることを4つ。
① 次に話を聞く人(現場の方) ② 現場に入って見せていただく日 ③ 今日の話で、見せていただける現物(用紙・エクセル・画面) ④ 次回の日程
漫画の話もここで。「いただいた話をもとに、こういう形で残していこうと思っています」と、いまの見本を見せる。この段階では「作ってよいか」ではなく「こういう形をどう思うか」を聞くほうが進みます。
参考:介護の現場で、踏み込んで聞けること
一般論の質問だけだと浅く終わります。制度の中身を知っている前提で聞くと、相手の答えが変わります。以下は一次資料(厚生労働省の通知・マニュアル)で確認した事実です。
記録について
介護保険の記録は「完結の日から2年間」保存が国の基準(省令第37条第2項)。ただし自治体の条例で5年に延ばしている例があります(栃木県など)。
「記録の保存は、こちらの自治体では何年と言われていますか。2年ですか、5年ですか」
相手が即答できない=紙の置き場所が整理されていない可能性が高い。ここが片付け甲斐のある所です。
加算とLIFEについて
LIFEへの提出は翌月10日まで。未提出だとさかのぼって過誤請求になります。令和6年の改定で、科学的介護推進体制加算の提出頻度が6か月に1回 → 3か月に1回に増えました。自立支援促進加算(280単位/月)も医学的評価が6か月→3か月に。つまり、加算の様式を書く回数が制度側で倍になっています。
「科学的介護推進体制加算は算定されていますか。3か月に1回になって、現場の手間はどう変わりましたか」
「LIFEの提出が翌月10日に間に合わなかったことはありますか。そのとき何が起きましたか」
令和6年度から生産性向上推進体制加算(Ⅰ=100単位/Ⅱ=10単位)が新設されています。
「生産性向上推進体制加算は、取られていますか。取るとしたら何が足りていないと思われますか」
運営指導について
施設系は3年に1回以上が望ましいとされ、通知は原則1か月前。対象の利用者は原則3名以内、確認するのは前年度分が基本。法人の財務は見ません。
マニュアルには施設長への質問例が載っています。実際に聞かれるのはこういうことです。
- 向精神薬を服用している方は何名ですか
- 派遣職員の月の合計勤務時間は
- 身体拘束を外すために、どんな取り組みをしていますか
「前回の運営指導はいつでしたか。そのとき、準備にどれくらいの時間がかかりましたか」
「文書指導(期限付きの改善報告)を受けたことはありますか。何を指摘されましたか」
ここは施設長が一番答えやすく、しかも一番痛い所です。漫画の動機づけにもそのまま使えます。
補助金について(聞かれたら答えられるように)
介護テクノロジー導入・定着支援事業(地域医療介護総合確保基金・実施主体は都道府県)。補助率は4/5。介護ソフトは職員数に応じて100〜250万円(併用で265万円)、パッケージ型は400〜1,000万円、業務改善支援は48万円。
条件に注意が要ります。施設系はLIFEのCSV連携仕様に準拠していることが必須、一気通貫(転記が発生しない)であること、業務改善支援の受講が必須、効果報告は翌年度から3年間。IT導入補助金とは併用できません。
金額と要件は都道府県の公募要領が正本です。この場で金額を断定せず「県の要領を確認します」で止めるのが安全。
数字で返せること(聞かれたとき用)
- 役割分担を見直した効果が出た業務は「記録・文書作成・連絡調整」が57%で最多(厚労省 効果測定事業)
- インカムと音声入力で記録の時間が週17時間短縮した施設がある
- 介護ソフトの導入で紙が3〜4割減
- 見守り機器を全床に入れると、夜勤1人あたりの対応可能人数が約1.3倍
- 介護職の離職率は12.4%、採用率14.3%(介護労働実態調査 令和6年度)
これらは他法人の実測値です。「御社でもこうなります」とは言わない。「こういう例があります」まで。
参考:話を漫画にするときの型
山と谷のつけ方
平坦な話は読まれません。上げて → 落として → もっと上げる。落ちきる所は全体の4分の3あたりに置くのが脚本術の定番です。真ん中あたりに「一度うまくいったように見える」場面を置くと、そのあとの落ちが効きます。
落とす回数は2回。研究でも「落ちて戻るを2回」が最も読まれる形の1つでした。3回以上は読み手が疲れます。
主人公の成長のつけ方
冒頭でできなかった行動を1つ決めて、最後にそれができる——これだけで成長は伝わります。説明は要りません。同じ場面を2回出して、反応だけを変えるのが確実です。
やってはいけないこと
数字を盛らない。最上級(日本一・唯一)を使わない。言っていないセリフを作らない。体験談も景品表示法の対象で、「個人の感想です」と添えても免罪にはなりません。谷の側は具体的に、山の側は控えめに書くのが安全で、しかも読み物として強くなります。