訪問ヒアリング 聞く順番と質問

業務改善の設計と、法人ごとの漫画の材料を、同じ90分で両方取るための台本

2026-10-01 作成 / 合同会社サン

この90分で持ち帰るもの

① 次に調べる業務を1本決める ② その1本を最初から最後まで追った手順 ③ 漫画の「山と谷」になる具体的な場面が3つ ④ 次回の対象者と日程

この4つが揃えば、帰ってから業務の設計図と漫画の台本の両方が書けます。

0. 始める前に、必ず言うこと0〜5分

最初にこれを言わないと、本当のことが出てきません。業務改善のヒアリングで現場が黙る最大の原因は「人を減らすために調べに来た」と思われることです。組織の長が先に「削減ではなく最適化」と言うのが要、と実務資料が揃って指摘しています。

「今日伺う内容は、やり方を楽にする設計のためだけに使います。個人の評価にも、人を減らす材料にも使いません。」
「90分いただいて、最後に『次に何を調べるか』を一緒に決めて終わりたいと思います。それで差し支えないでしょうか。」

録音する場合はここで断る。「正確に残したいので録らせてください。使うのは私の作業のためだけです」

出典=中川会計BPR/OGIS-RI/日経クロステック、ハンセン「ライフヒストリーのインタビュー方法」(全米日系人博物館 2005)の6原則〈調査・信頼関係・記録・抑制・撤収・再確認〉

1. 方針と痛いところ5〜20分

  1. いま、いちばん力を入れていることは何ですか。
  2. その中で、人の手が足りていないと感じるのはどのあたりですか。
  3. 数字で追っている指標はありますか。何を、どのくらいの頻度で見ていますか。
  4. もし明日から人が1人増えたら、その人に最初に何をやってもらいますか。 「何が優先か」を、順位を聞かずに取る聞き方
  5. 逆に、やめても誰も困らないと思っている仕事はありますか。 改善の順番はE(やめる)→C(まとめる)→R(入れ替える)→S(簡単にする)。やめるを飛ばして道具を入れると、無駄が速くなるだけになります
  6. 過去に、改善やシステムの導入でうまくいかなかったことはありますか。差し支えなければ、何が起きたか教えてください。 ここが漫画の「谷」になります。そして、同じ失敗を繰り返さない設計の制約になります

2. 仕事の全体像を分ける20〜45分

  1. この施設の仕事を、大きく5〜8個に分けるとどうなりますか。
  2. 毎日のもの・毎月のもの・年に1回のものは、それぞれどれですか。 月次・年次は忘れられやすく、あとから「実はこれが一番つらい」と出てきます
  3. それぞれ、主にどなたが担当されていますか。担当が1人しかいない仕事はどれですか。
  4. この中で件数がいちばん多いのはどれですか。おおよそ月に何件くらいですか。

この時間に埋める表(あとで業務の設計図になります)

業務名担当頻度1回の時間使う物(紙・システム)次に渡す先
※ 1回の所要時間 × 頻度 = 年間の工数。ここまで取れると、どこから手を付けるかが数字で決まります

3. 重いもの1本を、最後まで追う45〜70分

ここがこの90分の中心です。一般論を聞かず、直近で実際に処理した1件を追います。

  1. いま挙がった中でいちばん重いものを1つ選ばせてください。直近で実際に処理した1件を、受け取った瞬間から終わりまで順に教えてください。
  2. その仕事は、誰から・何の形で入ってきますか。(紙/メール/電話/システム)
  3. 各段階で何を使い、どの用紙に書きますか。
  4. 終わったら次は誰に・何を渡しますか。渡したあと、相手は何をしますか。
  5. 1件あたり、だいたい何分かかりますか。待ちで止まるのはどこですか。
  6. 同じ内容を2回以上、入力したり書き写したりしている所はありますか。 二重入力はほぼ必ず出てきます。国の調査でも「ソフト同士がつながらないので二重に入れている」が繰り返し報告されています
  7. この手順の中で「なぜこうしているのか」ご自身でも説明しにくい所はありますか。 「なぜ」を人ではなく手順に向けて聞く形。人に向けると犯人探しになります
  8. いちばん最近、この仕事でうまくいかなかったのはどんなケースでしたか。

4. 漫画の材料を取る70〜85分

ここは業務の質問とは目的が違います。場面・セリフ・気持ちを取りに行きます。抽象的な答えは材料になりません。「いつ」「誰が」「何と言ったか」まで降ろします。

  1. この仕事でいちばん困った日のことを教えてください。何月ごろの、どんな日でしたか。 物語は「いつ・どこで」から始まります。日付と場面が出ると、絵が描けます
  2. そのとき、誰が何と言いましたか。 そのままセリフになります。要約された答えが返ってきたら「実際はどんな言い方でしたか」と一段降ろす
  3. そのとき、どう思いましたか。 物語の中の気持ち。吹き出しと心の声になります
  4. いま振り返ると、あれは何だったと思いますか。 21と22は別の質問です。21は「あのとき」、22は「いま」。両方取らないと最後のページが書けません
  5. うまくいっていたのに、途中で元に戻ってしまったことはありますか。 新しいやり方は、入れた2〜3か月目に一度効率が落ちます(U字の法則)。ここが漫画の谷であり、先回りして説明できる所でもあります
  6. 職種の間で情報が止まるのはどこですか。介護・看護・相談員・ケアマネ・事務のどこですか。
  7. いま、職員の方がいちばん喜ぶのは何が変わったときだと思いますか。

聞きながら気をつけること

5. 締め85〜90分

質問ではなく決めることを4つ。

① 次に話を聞く人(現場の方) ② 現場に入って見せていただく日 ③ 今日の話で、見せていただける現物(用紙・エクセル・画面) ④ 次回の日程

漫画の話もここで。「いただいた話をもとに、こういう形で残していこうと思っています」と、いまの見本を見せる。この段階では「作ってよいか」ではなく「こういう形をどう思うか」を聞くほうが進みます。

参考:介護の現場で、踏み込んで聞けること

一般論の質問だけだと浅く終わります。制度の中身を知っている前提で聞くと、相手の答えが変わります。以下は一次資料(厚生労働省の通知・マニュアル)で確認した事実です。

記録について

介護保険の記録は「完結の日から2年間」保存が国の基準(省令第37条第2項)。ただし自治体の条例で5年に延ばしている例があります(栃木県など)。

「記録の保存は、こちらの自治体では何年と言われていますか。2年ですか、5年ですか」

相手が即答できない=紙の置き場所が整理されていない可能性が高い。ここが片付け甲斐のある所です。

加算とLIFEについて

LIFEへの提出は翌月10日まで。未提出だとさかのぼって過誤請求になります。令和6年の改定で、科学的介護推進体制加算の提出頻度が6か月に1回 → 3か月に1回に増えました。自立支援促進加算(280単位/月)も医学的評価が6か月→3か月に。つまり、加算の様式を書く回数が制度側で倍になっています。

「科学的介護推進体制加算は算定されていますか。3か月に1回になって、現場の手間はどう変わりましたか」
「LIFEの提出が翌月10日に間に合わなかったことはありますか。そのとき何が起きましたか」

令和6年度から生産性向上推進体制加算(Ⅰ=100単位/Ⅱ=10単位)が新設されています。

「生産性向上推進体制加算は、取られていますか。取るとしたら何が足りていないと思われますか」

運営指導について

施設系は3年に1回以上が望ましいとされ、通知は原則1か月前。対象の利用者は原則3名以内、確認するのは前年度分が基本。法人の財務は見ません。

マニュアルには施設長への質問例が載っています。実際に聞かれるのはこういうことです。

「前回の運営指導はいつでしたか。そのとき、準備にどれくらいの時間がかかりましたか」
「文書指導(期限付きの改善報告)を受けたことはありますか。何を指摘されましたか」

ここは施設長が一番答えやすく、しかも一番痛い所です。漫画の動機づけにもそのまま使えます。

補助金について(聞かれたら答えられるように)

介護テクノロジー導入・定着支援事業(地域医療介護総合確保基金・実施主体は都道府県)。補助率は4/5。介護ソフトは職員数に応じて100〜250万円(併用で265万円)、パッケージ型は400〜1,000万円、業務改善支援は48万円。

条件に注意が要ります。施設系はLIFEのCSV連携仕様に準拠していることが必須、一気通貫(転記が発生しない)であること、業務改善支援の受講が必須、効果報告は翌年度から3年間。IT導入補助金とは併用できません。

金額と要件は都道府県の公募要領が正本です。この場で金額を断定せず「県の要領を確認します」で止めるのが安全。

数字で返せること(聞かれたとき用)

これらは他法人の実測値です。「御社でもこうなります」とは言わない。「こういう例があります」まで。

参考:話を漫画にするときの型

山と谷のつけ方

平坦な話は読まれません。上げて → 落として → もっと上げる。落ちきる所は全体の4分の3あたりに置くのが脚本術の定番です。真ん中あたりに「一度うまくいったように見える」場面を置くと、そのあとの落ちが効きます。

落とす回数は2回。研究でも「落ちて戻るを2回」が最も読まれる形の1つでした。3回以上は読み手が疲れます。

主人公の成長のつけ方

冒頭でできなかった行動を1つ決めて、最後にそれができる——これだけで成長は伝わります。説明は要りません。同じ場面を2回出して、反応だけを変えるのが確実です。

やってはいけないこと

数字を盛らない。最上級(日本一・唯一)を使わない。言っていないセリフを作らない。体験談も景品表示法の対象で、「個人の感想です」と添えても免罪にはなりません。谷の側は具体的に、山の側は控えめに書くのが安全で、しかも読み物として強くなります。